アプリケーションノート:
マイクロ流体ドロップレットを用いた抗菌薬感受性試験(AST)
概要
マイクロ流体ドロップレット技術は、マイクロドロップレット(微小液滴)内に細菌と抗菌薬を封入し、シングルセル(単一細胞)レベルで薬剤感受性評価を可能にする革新的な手法です。従来法と比べて、検出感度・スループット・解析速度が大幅に向上し、稀な耐性菌やヘテロ耐性菌の検出、複数薬剤の組み合わせ評価、さらには臨床現場での迅速なASTへの応用が期待されています。
実験プロトコル例(参考情報)
材料・機器
マイクロ流体チップ(フローフォーカシングチップ)
キャリアオイル(例:008-FluoroSurfactant in HFE7500)
細菌培養液(例:大腸菌、緑膿菌、黄色ブドウ球菌など)
抗菌薬溶液(例:アンピシリン、シプロフロキサシン、バンコマイシンなど)
培地(例:LBブロス、MHBなど)
蛍光生存染色剤(例:レサズリン、SYTO9/PI、Calcein-AM)
マイクロ流体システム(例:マイクロドロップレットジェネレーター μ-Droplet NTS)
蛍光顕微鏡または自動画像取得装置
手順
細菌懸濁液の調製
対象細菌を適切な培地で一晩培養し、対数増殖期の細胞を回収します。
PBSや培地で希釈し、最終濃度を調整します(シングルセル封入率をPoisson分布で最適化)。
抗菌薬濃度勾配の調製
抗菌薬を培地で段階希釈します。それぞれの濃度を別々に分注します。
複数薬剤の組み合わせ評価の場合は、各薬剤の濃度組み合わせを設計します。
ドロップレット生成
細菌懸濁液、抗菌薬溶液、キャリアオイルをマイクロ流体チップに接続します。
マイクロ流体ポンプで流量(例:細菌・薬剤各0.5 μL/min、オイル2 μL/min)を調整し、均一なドロップレットを生成します。
ドロップレット内に細菌と抗菌薬を同時封入し、適切なシングルセル占有率に設定します。
インキュベーション
液滴をPCRチューブやマイクロプレートに回収し、37℃で2~4時間(菌種や薬剤に応じて適切な時間)インキュベートします。
検出・解析
蛍光顕微鏡を用いてドロップレットを撮像します。
蛍光強度やドロップレットの収縮を測定することで細菌の増殖を定量します。
データを解析し、最小発育阻止濃度(MIC)を決定し、耐性サブポピュレーションを特定します。
考察とまとめ
マイクロ流体ドロップレット技術を用いたASTでは、ドロップレットサイズや生成条件(流量やキャリアオイル)によって細菌の増殖や薬剤効果が変動するため、事前の最適化が不可欠です。また、組み合わせ薬剤スクリーニングを行う場合には、複数の抗生物質チャネルを利用して異なる組み合わせのドロップレットを生成する必要があります。希少な耐性菌の検出には、ドロップレット数を増やし、シングルセルのカプセル化を最適化することが重要です。さらに、AIベースの画像解析を活用することで、ドロップレットの分類やMIC判定を自動化し、解析の効率化と客観性向上が期待できます。
この技術の大きな利点は、単一細胞レベルでの解析が可能なためヘテロ耐性の検出ができること、高スループットにより複数の薬剤や濃度を迅速にスクリーニングできること、そして従来のASTと比較して試薬消費量が少なく、結果が得られるまでの時間が大幅に短縮される点です。これらの特徴により、マイクロ流体ドロップレット技術は今後のAMR対策や臨床応用、創薬研究において有望なプラットフォームとなると考えられます。
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