マイクロフルイディクス(マイクロ流体力学、microfluidics)とは

マイクロフルイディクスとは、流路スケールが微細なことによって、流体挙動が従来スケールの流動理論とは異なる流体システムの科学です。マイクロ流体の挙動は、ピコリットルからマイクロまでのスケールで、約1〜1000μm幅のマイクロ流路を有するマイクロ流体チップによって精密に制御されます。

 

マイクロフルイディクスの特徴

マイクロ流体チップで反応等を行う場合、マイクロ流路の短い距離および高い表面積対体積比により、質量および熱の輸送時間が短縮されます。これにより、迅速かつ正確に反応濃度や反応温度を制御することができます。微小な流体体積を制御する場合、流体が慣性力ではなく粘性力の影響を大きく受ける低いレイノルズ数(<250)の領域になります。そのようなマイクロ流体システム内においてはレイノルズ数が低く、非線形性がない非常に安定した層流を形成できます。この様な層流が形成されている環境下においては分子拡散のみによって混合が起こります。

マイクロフルイディクスの応用は、非線形性の乱流に支配されたバルク(フラスコや試験管等)で行っていた実験をチップ上で少量のサンプルを連続的に送液しながら実験ができるラボオンチップ(lab-on-a-chip)に集約することを実現し、2液混合・反応、検出・分析、分取などの各工程を単一のマイクロ流路チップ上で半自動的に高速で且つ正確に実施することも可能にしました。

 

マイクロフルイディクスの利点:

  • 集積化、小型化、省スペース化
  • 効率化、連続プロセス化、自動化
  • 反応やアッセイのパラレル化、複合化、多重化
  • 正確な制御と高速な反応・操作
  • サンプルの少量化
  • 安全性向上
  • コスト削減

 

マイクロフルイディクスの展望:バイオマイクロフルイディクスの世界へ

マイクロ流体技術が誕生した初期の頃は、マイクロ流体力学や微細加工技術を基にしたマイクロ流路チップ・ラボオンチップなどのデバイス要素技術の研究開発を中心に行われていましたが、それらの研究開発がある程度一巡した現在は技術をどのように活用していくかといったアプリケーションや装置の実用化、商業化へ向けた活動に注目が集まっています。

2000年初頭頃に想像されていたような広い分野での既存技術からマイクロ流体デバイスへの単純な大転換は起こらず、世間では一時マイクロ流体技術への期待が薄れていましたが、近年は、フローケミストリー(フロー合成)などの合成化学分野に加え、シングルセル(1細胞)解析によるがん細胞の特異性の研究、創薬スクリーニング、薬物の体内へ正確な伝達を行うドラッグデリバリーシステム(DDS)開発、再生医療向け3D細胞培養など、バイオ医薬、医療分野への応用などに再び期待が高まっています。「モノ」から「コト」へのビジネス変革がこのマイクロ流体技術分野においても進んでいくと考えられますので、どんなことを実現したいのか、すべきかといった目的意識や方向性をしっかりと持って研究や開発をしていくことが大切になると思います。

 

参考文献:

  • Nam-Trung Nguyen & Wereley, S. T. ”Fundamentals and Applications of Microfluidics.” Artech House, 2002.
  • Elvira, K. S., Casadevall i Solvas, X., Wootton, R. C. R. & de Mello, A. J. ”The past, present and potential for microfluidic reactor technology in chemical synthesis.” Nat. Chem. 5, 905–15 (2013).